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【岡本学部長の論文が掲載されました】扁平上皮がん細胞で高発現しているHBp17タンパクを標的としたビタミンDによるがん細胞の増殖制御について~扁平上皮がん治療に新たな可能性を開く~
【本研究成果のポイント】論文掲載
カルシウム代謝において重要な働きをしているホルモンである活性型ビタミンD3 (VD3)およびその誘導体で骨粗鬆症治療薬として国内で広く使用されているED-71が、扁平上皮がん細胞におけるHeparin-binding protein 17(HBp17)の発現を抑制し、その増殖、浸潤や転移を抑制することを明らかにしました。
【概 要】
東亜大学医療学部 岡本 哲治 教授(広島大学名誉教授)、広島大学病院 新谷 智章 講師、檜垣 美雷 助教、Zawani Rosli研究員(Ministry of Health Malaysia)らの研究グループは、活性型ビタミンD3 (VD3)およびその誘導体が、扁平上皮がん細胞におけるHeparin-binding protein 17(HBp17)の発現を抑制することで、扁平上皮がん細胞の増殖、浸潤や転移を抑制することを明らかにしました。
HBp17/FGFBP-1 (heparin binding protein17/fibroblast growth factor binding protein-1 以下HBp17と略します)は、口腔がん,頭頸部がん、食道がんや皮膚がんの大部分を占める扁平上皮がんで高発現され、扁平上皮がんの増殖や血管新生に密接に関与していることを、私たちの研究グループ等が明らかにしてきました。また、ゲノム編集技術を用いて、扁平上皮がん細胞におけるHBp17遺伝子をノックアウトし、HBp17の機能解析を行った結果、HBp17遺伝子ノックアウト扁平上皮がん細胞では細胞分化が促進され、増殖能、運動能や造腫瘍性が抑制されることを報告してきました。
本研究では、カルシウム代謝において重要な働きをしているホルモンである活性型ビタミンD3 (VD3)およびその誘導体であるED-71が、扁平上皮がん細胞におけるHBp17の発現を抑制し、扁平上皮がん細胞の増殖、浸潤や転移を抑制することを明らかにしました。
今回の結果から、口腔がんの大部分を占める扁平上皮がん細胞におけるHBp17を標的にしたビタミンDを用いたがん治療の可能性が考えられました。
本研究成果は、2024年5月7日、ドイツの医学誌「In Vitro Cellular & Developmental Biology – Animal」(SpringerNature)オンライン版に掲載されました。
<発表論文>
論文タイトル:Potential treatment of squamous cell carcinoma by targeting heparin‑binding protein 17/fibroblast growth factor‑binding protein 1 with vitamin D3 or eldecalcitol
著 者:
新谷智章1、檜垣美蕾2、Siti Nur Zawani Rosli3、岡本哲治4
1. 広島大学病院口腔検査センター
2. 広島大学病院顎口腔外科
3. NIH, Ministry of Health Malaysia
4. 東亜大学医療学部
DOI 番号:https://doi.org/10.1007/s11626-024-00913-3
【背景】
扁平上皮がんは、口腔がん,頭頸部がん、食道がんや皮膚がんの大部分を占めます。HBp17 (Heparin Binding Protein17)は、外陰部由来扁平上皮がん細胞株A431細胞の培養上清より精製された分泌タンパクで、扁平上皮細胞で特異的に発現され、線維芽細胞増殖因子-1, -2(FGF-1, -2)(#1)と可逆的に結合し、細胞外へのFGFsの分泌や、細胞表面でのFGFs の安定性・遊離・活性化に深く関与していること、さらに、HBp17は口腔扁平上皮がんの悪性化に伴い高発現し、その増殖や血管新生に密接に関与していることを、私たちの研究グループ等が報告してきました。また、活性型ビタミンD3が口腔扁平上皮がんにおけるHBp17の発現を抑制することで増殖を抑制することも明らかにしてきました。
【研究成果の内容】
今回の研究では、扁平上皮がん細胞におけるHBp17を標的とした新たながん治療の可能性を探索するため、HBp17の発現抑制を指標に種々の分子を検討した結果、カルシウム代謝における重要なホルモンであるビタミンDおよびその誘導体で骨粗鬆症治療薬として国内で広く使用されているED-71が、HBp17遺伝子の発現を抑制することを明らかにしました。
さらに、扁平上皮がん細胞株A431および口腔由来扁平上皮癌細胞株HO-1N-1を用いた検討で、ビタミンDおよびED-71は細胞増殖、浸潤能を抑制し、さらにこれら扁平上皮がん細胞を免疫不全マウスの背部皮下に移植した腫瘍の造腫瘍性や増殖能も有意に抑制しました(図1)。
【今後の展開】
ビタミンDが扁平上皮がん細胞の増殖、浸潤や転移を抑制することが明らかになったことから、今後ビタミンDを用いたがん予防並びにビタミンDと他の治療法を併用した扁平上皮がんの新たな治療の可能性が期待されます。
【お問い合わせ先】
東亜大学医療学部 教授 岡本哲治 Tel:083-256-1111(内線5092) E-mail:tetsuok*toua-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください) |
<用語説明>(#1)線維芽細胞増殖因子
種々の腫瘍細胞、上皮細胞や線維芽細胞をはじめとするさまざまな細胞に対して増殖活性や分化誘導活性などの作用を示す細胞増殖因子のこと。
図1.扁平上皮がん細胞(SCC/0SCC)における 1α,25(OH)2D3 (VD3) およびED-71 によるHBp17/FGFBP-1 発現抑制と腫瘍増殖抑制の概要
VD3 およびED-71は、細胞内受容体であるVDR に結合後、NFκBシグナル伝達経路における IκBα発現を上方制御することで、扁平上皮がん細胞における NFκBシグナル伝達を抑制した結果、HBp17/FGFBP-1 の発現を抑制することが明らかとなりました。その結果、腫瘍性血管新生や増殖が抑制されると考えられました。
図1