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腫瘍浸潤CD45RO+記憶細胞は口腔扁平上皮癌患者の良好な予後と関連していることを発見~ 口腔がん治療に新たな可能性を開く ~

【本研究成果のポイント】

● 口腔扁平上皮がん(OSCC)の腫瘍組織における高いCD45RO 発現腫瘍内浸潤リンパ球 (Tumor-infiltrating lymphocytes: TILs) 数は、OSCC 患者の無病/全生存期間の改善と有意に関連していました。  

● CD45RO 発現 TILs 密度は、腫瘍細胞における 主要組織適合遺伝子複合体 (MHC)

クラスI 鎖関連分子 A (MICA) の発現と相関していました。

【概 要】

東亜大学医療学部 岡本 哲治 教授(広島大学名誉教授)及び広島大学病院 新谷智章 講師、伊藤奈七子歯科診療医らの研究グループは、腫瘍内浸潤リンパ球であるCD45RO+記憶細胞が口腔扁平上皮癌(OSCC)患者の良好な予後と関連していることを明らかにしました。

腫瘍内浸潤リンパ球 (Tumor-infiltrating lymphocytes: TILs) は、固形腫瘍の予後を予測するために有用であることが報告されています。本研究では、いかなるTILsが予後予測因子として重要かを明らかにするために、 TILsにおけるCD3、CD8、CD45RO、グランザイム B、および主要組織適合遺伝子複合体クラス I 鎖関連分子 A (MICA)の発現を免疫組織学的に明らかにし、各陽性TILs数と無病生存率/全生存率との関連性をレトロスペクティブに評価しました。その結果、腫瘍組織におけるCD45RO 発現 TILs 数は、OSCC 患者の無病/全生存期間の改善と有意に関連していました。この結果から、CD45RO 発現 TILs はOSCC の有用なバイオマーカーであることが考えられました。

本研究成果は、日本時間:2023年4月11日、スイスの医学誌「Cancers」オンライン版に掲載されました。

<発表論文>

論文タイトル:Tumor-Infiltrating CD45RO+ Memory Cells are Associated with Favorable Prognosis in Oral Squamous Cell Carcinoma Patients

著 者:伊藤奈七子1、山崎佐知子1、新谷智章2、松井健作1、大林史隆1、小泉浩一1、谷亮治1、柳本惣市1、岡本哲治3

所属:

  • 広島大学病院 顎・口腔外科
  • 広島大学病院 口腔検査センター
  • 東亜大学 医療学部

掲載雑誌:Cancers 2023,15(8),2221 https://doi.org/10.3390/cancers15082221

【背景】

腫瘍内浸潤リンパ球 (Tumor-infiltrating lymphocytes (TILs) は、固形腫瘍の予後を予測するために有用であることが報告されています。また、ナチュラルキラー (NK) 細胞および CD8+ T 細胞において、NKG2D のリガンドとして作用する 主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスI 鎖関連分子 A (MICA) は、口腔扁平上皮癌(OSCC)患者の生存率の向上に寄与していることを、我々や他の研究者が報告してきました。

【研究成果の内容】

本研究では、どのような種類のTILsがOSCC患者の予後に有用な役割を果たしているか、さらにOSCC 患者の予後と、TILs および MICA との関連性を明らかにし、それらTILs細胞のバイオマーカーとしての可能性を調査しました。

方法: 33 名の OSCC 患者を対象に、レトロスペクティブな症例研究を行った。

口腔扁平上皮癌組織のTILsにおける、CD3、CD8、CD45RO、グランザイム B、および主要組織適合遺伝子複合体クラス I 鎖関連分子 A (MICA)の発現を、免疫組織学的に検討し、どのようなTILが予後予測因子として重要かを、腫瘍中心部 (CT) および腫瘍周辺部(IM)における各TILs の細胞数をスコア化し、上位50%をhigh群、下位50%をlow群として評価することで検討しました。

その結果、以下のことが明らかとなりました。

  • 非再発群の CT 領域と IM 領域におけるCD45RO陽性TIL数 は、再発群のそれよりも有意に高いことが明らかとなりました (p < 0.05)。
  • CTおよびIM領域でのCD45RO陽性TILsのhigh群、IM領域でのGranzyme B陽性TILsのhigh群の無病生存率/全生存率は、CD45RO陽性TILs low群およびGranzyme B陽性TILs low群に比べて有意に高いことがわかりました(p < 0.05)。
  • CD45RO陽性TILs high 群におけるOSCC細胞の MICA 発現スコアは、CD45RO陽性TILs Low 群よりも有意に高いことが判明しました (p < 0.05)。

【今後の展開】

CD45RO 発現 TILs は、OSCC の有用なバイオマーカーであることが明らかになったことから、治療前に腫瘍組織におけるCD45RO 発現 TILsを評価することで、予後予測が可能となり、より安全で最適な治療を行うことが可能となると考えられます。

<用語説明>

口腔扁平上皮癌(OSCC):口腔扁平上皮組織より発生する上皮性の癌腫

腫瘍浸潤リンパ球(TILs):腫瘍の中に浸潤するリンパ球の総称。腫瘍を認識する腫瘍抗原特異的リンパ球が存在する

CD45RO陽性細胞:メモリーT細胞の総称

CD3陽性細胞:感染に際して体の防御反応を担当するリンパ球が細胞表面に発現する主要抗原CD8陽性細胞:キラーT細胞、ウイルスなどの感染細胞や腫瘍細胞を殺傷能力を持つ細胞

グランザイム B:NK細胞細胞傷害性T細胞の細胞内顆粒に最も一般的に存在するセリンプロテアーゼ

【お問い合わせ先】

東亜大学医療学部 教授 岡本哲治 Tel:083-256-1111(内線5092)  E-mail:tetsuok*toua-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

【参考資料】

図1. OSCC 組織の CT (左パネル) または IM (右パネル)における、CD3+、CD8+、CD45RO+、グランザイム B+のTILs の細胞密度上位50%群(High群)(赤線)および下位50%群(Low 群)(青線)の無病生存率(DFS) のカプラン・マイヤー曲線を示しています。

CT (p = 0.0045) およびIM (p = 0.0003) におけるCD45RO陽性TILs密度high群、およびIMにおけるグランザイム B陽性TILs High群(p = 0.0091)のDFSは有意に高いことがわかりました。ログランク検定で解析しました。

図2. OSCC 組織の CT (左パネル) または IM (右パネル)における、 CD3+、CD8+、CD45RO+、グランザイム B+のTILs の細胞密度上位50%群(High群)(赤線)および下位50%群(Low 群)(青線)の全生存率(OS)のカプラン・マイヤー曲線を示しています。

CT (p = 0.0007) およびIM (p = 0.0031) におけるCD45RO陽性TILs密度high群、およびIMにおけるグランザイム B陽性TILs High群(p = 0.0155)の全生存率は有意に高いことがわかりました。ログランク検定で解析しました。